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東京地方裁判所 平成元年(ワ)8126号 判決

静岡市中原五六九番地

原告

株式会社 バロン

右代表者代表取締役

一色忠成

右訴訟代理人弁護士

吉井参也

右輔佐人弁理士

金子昭生

東京都文京区音羽一丁目二〇番一一号

被告

プラス 株式会社

右代表者代表取締役

今泉嘉久

右訴訟代理人弁理士

関喆

右輔佐人弁理士

江藤

右当事者間の平成元年(ワ)第八一二六号実用新案権侵害差止等請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、別紙目録記載のキヤスター付き支持台を有する物入ケース(以下「被告製品」という。)を製造販売してはならない。

2  被告は、被告製品を廃葉せよ。

3  被告は、原告に対し、三三〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有している。

登録番号 第一七三二〇九三号

考案の名称 移動式支持台を有する物入ケース

出願 昭和五四年九月一二日

公告 昭和六二年七月一一日

登録 昭和六三年五月二四日

2  被告は、遅くとも昭和六二年ころから、業として、被告製品を製造販売している。

3  被告製品は、次のとおり、本件考案の技術的範囲に属する。

(一) 本件考案

(1) 本件考案の実用新案登録出願の願書に添付した明細書(昭和六三年九月五日の訂正審判請求による訂正後のもの。以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載は、本判決添付の登録実用新案審判請求公告に係る実用新案公報(以下「本件訂正公報」という。)の該当項記載のとおりである。

(2) 本件考案の構成要件は、次のとおりである。

(A) 側面視コ状に枠組形成し、下部枠杆4(番号及び符号は、本件訂正公報記載のものを示す。本件考案につき以下向じ。)の下面には前後二個のキヤスターC、Cを具備せしめるものとした支持脚bを左右に平行に配置し、この左右支持脚b、bの間を連結杆5を以つてつなぎ一体に支持台Bを構成し、

(B) 支持台B上に箱形をする物入ケースAを密着して形設し、

(C) 前記支持脚b、bの縦枠杆1、1の上方延長線上に物入ケースAの前面開口部aが位置する如く形成した

(D) 移動式支持台を有する物入ケース。

(3) 本件考案の作用効果は、次のとおりである。

本件考案の移動式支持台を有する物入ケースは、支持台Bにおける支持脚の前面縦枠1、1あるいは物入ケースAの適所を握つて引押しすれば、キヤスターにより、いづこへでも移動させることができるので、例えば、従来は未利用空間であつたデスクの甲板下面空間に対し、支持台Bのコ状支持脚により形成されている空間をデスク下方における横桟や突出部と嵌合するように押し込めば、デスク下面空間内に収納ケースを嵌装したこととなり、未利用空間を充分に活用することができるので、この場合、物入ケースの前面開口が最も手の届きやすい箇所に位置することになり、各種物品の出し入れに至便である。このように、今までほとんど使用されなかつた空間を活用するので、他の事務用家具の未利用下部空間にも巾広く適用できる。

(二) 被告製品は、次のとおり、本件考案の構成要件をすべて充足する。

(1) 被告製品は、別紙目録記載のとおり、側面視コ状に枠組形成し、下部枠杆4'(番号及び符号は、別紙目録添付の図面記載のものを示す。被告製品につき以下向じ。)の下面には前後二個のキヤスターC'、C'を具備せしめた支持脚b'を左右に平行に配置し、左右支持脚b'、b'の上部枠杆3'、3'の間を一本の連結杆5'をもつて、下部枠杆4'、4'の間を二本の連結杆5'、5'をもつて各連結して一体に支持台B'を構成するものであるから、本件考案の構成要件(A)充足する。

(2) 被告製品は、別紙目録記載のとおり、箱形の物入ケースA'の下面に凹入部6'を設け、該凹入部6'に支持台B'の上部枠杆3'、3'を嵌合させて物入ケースA'を支持台B'に載置している。ところで、本件考案は、もともと、キヤスターを具備した支持台と物入ケースとの二つの部分からなるものであり、その使用に際しては、支持台の部分と物入ケースの部分とが互いに離脱することなく移動可能であることが必要であるが、それ以上に両者がボルト等によつて固定されることまでをも要するものではない。このことは、本件明細書の考案の詳細な説明の項に、「移動式支持台上に箱形状をする物入ケースを一体状に架載形成してなる」(本件訂正公報一頁左欄一三、一四行)、「物入ケース……上部枠杆上に載架密着させて」(同二頁左欄九行ないし一三行)と記載されていることから明らかである。すなわち、本件考案においては、物入ケースの下面と上部枠杆の上面とが密着した状態で水平方向に移動した場合に、物入ケース部分と支持台部分とが分離しないで移動することができるように、物入ケースを支持台上に載置していることを、「密着して形設し」という構成で示したのである。そして、被告製品は、石のとおり、物入ケースA'の下面の凹入部6'に支持台B'の上部枠杆3'、3'を嵌合させて物入ケースA'を支持台B'に載置しているものであるが、これを水平方向に移動した場合、物入ケース部分と支持台部分とが分離しないで移動することができるから、被告製品は、本件考案の構成要件(B)を充足する。

(3) 被告製品は、支持脚b'、b'の縦枠杆1'、1'の外側面の延長線上より約五ミリメートル外方に物入ケースA'の前面開口部a'か位置するように形成されている。ところで、本件考案は、デスク下方における横桟や突出部が存在している個所に物入ケースを嵌装することを目的として、支持脚を側面視コ状に形成し、これを前提として、物入ケースの前面開口部を手の届きやすい個所に位置させて物品を容易に出し入れすることかできるようにするとともに、物入ケースを奥方に向かつて箱状に形成してかなりの物品を収納することができるようにするために、縦枠杆と前面開口部とを揃えたものであり、このことからも明らかなように、本件考案のワゴンタイプの物入ケースのような場合においては、精密機械と異なつて、被告製品のように、縦枠杆の外側面の延長線上より約五ミリメートル外方に物入ケースの前面開口部が位置するように形成したからといつて、全く外方に位置しないように形成したものとの差は、有意の差とは認められないのである。したがつて、被告製品は、支持脚b'、b'の縦枠杆1'、1'の上方延長線上に物入ケースA'の前面開口部a'が位置するものということができるから、本件考案の構成要件(C)を充足する。

(4) 被告製品は、キヤスター付き支持台を有する物入ケースであるから、本件考案の構成要件(D)を充足する。

4  被告は、被告製品を製造販売することが本件実用新案権を侵害するものであることを知り、又は過失によりこれを知らないで、被告製品を製造販売したものであるところ、原告は、被告の右行為により、次のとおりの損害を破つた。

(一) 被告の昭和六二年以降における被告製品の販売台数は、少なくとも一か月当たり一五〇〇台を下らないから、被告は、本件考案の実用新案登録出願について出願公告がされた昭和六二年七月一一日の後である同年八月一日から本件訴えを提起した日の直前である平成元年五月三一日までの二二か月間にわたつて、被告製品を少なくとも三万三〇〇〇台(一五〇〇台×二二月)販売した。

(二) 原告は、右の期間中、被告の右行為により、右同数の本件考案の実施品である原告の商品の販売の機会を失つたものであるところ、原告の右商品の一台当たりの平均出荷価額は約五〇〇〇円であり、これによつて得る利益はその二〇パーセント以上で一〇〇〇円を下ることはないから、原告が被つた損害の額は、三三〇〇万円(一〇〇〇円×三万三〇〇〇台)に遠する。

5  よつて、原告は、被告に対し、本件実用新案権に基づき、被告製品の製造販売の差止め及び被告製品の廃棄並びに損害賠償として三三〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因1及び2は認める。同3(一)のうち、(1)及び(2)は認めるが、(3)は否認する。同3(二)は否認する。同4は否認する。

三  被告の主張

被告製品は、次のとおり、本件考案の技術的範囲に しない。

1  本件考案は、原告が請求の原因3(一)(3)で主張する作用効果のほかに、次の(一)ないし(四)の作用効果を奏する。なお、そのうちの(二)ないし(四)の効果は、特許庁審査官の昭和六一年六月二日付拒絶理由通知書(乙第八号証)をもつてした「考案の詳細な説明中には、実用新案登録請求の範囲に限定した構成事項に対応して効果が記載されていず、不明瞭である。例えば、支持脚の縦枠杆の上方延長線上に物入ケースの前面開口部が位置する如く形成した構造に対応する効果が不明である。」旨の拒絶理由通知に対して、原告が同年九月四日付意見書に代えた手続補正書(乙第九号証)をもつて追加したものである。

(一) 上部の物入ケースは、所要の事務用紙棄、フアイル、筆記具等の格好の収納ケース体であつて、更に、該物入ケース体の上面は、平坦面であるから、簡易な筆記面として使用することができ、あるいは物品の載置面として充分活用することもできる。

(二) 特に、支持脚の縦枠杆の上方延長線上に物入ケースの前面開口部が位置するように形成した構造となつているので、低所にあり、かつ、小形な物入れにもかかわらず、 項その他の物品の出し入れが極めて容易になし得るとともに、この物入ケースは、奥方に向かつて箱状に形成されているので、かなりの物品を収納することができる。

(三) 物入ケースAの前面開口部aにおける周囲枠部分2は、最も堅固に構成されている縱枠杆1の上方に直結しての堅牢な部分であるので、かかる最も手のかかりやすい個所に手をかけることにより、最も安定した状態で移動させることかできる。

(四) また、周囲枠部分2は、前面扉を取り付ける個所として最も堅固な構成であるとともに、前面が うこととなるので、体裁上もよい。

2(一)  被告製品は、次のとおり、本件考案の構成要件(B)を充足しない。

本件考案の構成要件(B)の「支持台B上に箱形をする物入ケースAを密着して形設し」というのは、本件明細書の考案の詳細な説明の項に記載されているように、「移動式支持台上に箱形状をする物入ケースを一体状に架載形成してなる」(本件訂正公報一頁左欄一三、一四行)こと、「物入ケースAの前面開口部aにおける周囲枠部分2は、最も堅固に構成されている縱砕杆1の上方に直結して」(同二頁右欄一六行ないし一九行)いることを意味し、「密着して形設し」とは、文理的に「固着」あるいは「固定」と同義である。このことは、次の点からも裹付けられる。すなわち、本件考案は、昭和五四年実用新案登録出願第一二六七五一号を分割出願したものであるところ、右のもとの実用新案登録出願の願書に添付した明細書及び図面には、物入ケースと支持台とをボルト締めすることが記載されているのである。そして、作用効果の点からみても、本件考案は、「物入ケースAの前面開口部aにおける周囲枠部分2は、最も堅固に構成されている樅砕杆1の上方に直結しての堅牢な部分であるので」(本件訂正公報二頁右欄一六行ないし一九行)、このような縦枠杆1と前面開口部aとの相対的な直結(固着等)関係により、最も手のかかりやすい個所である前面開口部aにおける周囲枠部分2「に手をかけることにより最も安定した状態で移動させることが出来る」(同二頁右欄二〇、二一行)のである。

これに対して、被告製品は、支持台B'に物入ケースA'を嵌合載置しただけのものであつて、互いに係離自在に組み付けたにすぎず、それゆえに、前面開口部a'における周囲枠部分は、縦枠杆1'、1'の上方に直結しての堅牢な部分であるとはいえないし、最も安定した状態で移動させることができるともいえないのである。被告製品においては、物入ケース部分にある程度の重量を加えないと、時として、殊に床部分に凹凸がある場合には、移動がスムースでないことが経験上明らかである。

したがつて、被告製品は、本件考案の構成要件(B)を充足しない。

(二)  また、被告製品は、次のとおり、本件考案の構成要件(C)を充足しない。

(1) 支持台下にキヤスターを具備し、支持台上に箱形を有するケースを、キヤスターによりどこにでも自由に移動させて、物品を移動、運搬し、なお物品を下枠杆の下面に前後二個のキヤスターを具備し、支持台上に箱形を有するケースを密着して形設した移動式物入ケースが掲載されている。

以上の公知例に照らすと、本件考案は、その構成要件(C)を備えていることによつて実用新案登録を受けたものと解するのが相当である。このことは、前1の本件考案の出願の経過からも、裏付けられる。

(2) 他方、被告製品は、支持脚b'、b'の縦枠杆1'、1'の外側面の延長線上より約五ミリメートル外方に物入ケースA'の前面開口部a'が位置するように形成されており、支持脚b'、b'の縱枠杆1'、1'の上方延長線上に物入ケースA'の前面開口部a'が位置するような構成ではないから、本件考案の構成要件(C)を充足しない。

(3) この点について、原告は、本件考案は、デスク下方における横桟や突出部が存在している個所に物入ケースを嵌装することを目的として、支持脚をと側面視コ状に形成し、これを前提として、物入ケースの前面開口部を手の届きやすい個所に位置させて物品を容易に出し入れすることができるようにするとともに、物入ケースを奥方に向かつて箱状に形成してかなりの物品を収納することができるようにするために、縱枠杆と前面開口部とを揃えたものであつて被告製品のように、縦枠杆の外側面の延長線上より約五ミリメートル外方に物入ケースの前面開口部が位置するように形成したからといつて、全く外方に位置しないように形成したものとの差は、有意の差とは認められない旨主張する。

しかしながら、本件考案は、「支持台Bにおける支持脚の前面縦枠杆1あるいは物入ケースAの適所を握つて引押しすれば下枠杆下面のキヤスターによりいづこへでも移動させることを得るもの」(本件訂正公報二頁左欄一五行ないし一九行)であつて、デスク下方に嵌装するというのは、未利用空間を利用する一例にしかすぎないのである。そして、支持脚の縱枠杆1、1の上方延長線上に物入ケースAの前面開口部aが位置するからといつて、物品を容易に出し入れすることができるかどうかは疑問であり(物品の出し入れのためには、物入ケースAの前面開口部aの位置が問題になるにすぎず、支持脚の縱枠杆1、1と該前面開口部aとの相対的な位置関係は、問題とならない。)、仮に物品を容易に出し入れすることができるようにするとともに、かなりの物品を収納することができるようにするのであれば、収納する目的を併せ持つものは、従来から数多くみられるところである。例えば、遅くとも昭和五三年末には作成されていた株式会社トレジヤー事務器袋作所の「トレジヤーのスチールケース」と題するカタログ(乙第一号証)には、側面視コ状に枠組形成し、下部杆の下面には前後二個のキヤスターを具備した支持脚を左右平行に配置し、この左右支持脚の間を連結杆をもつてつなぎ一体に構成してなる支持台上に、箱形の物入ケースを嵌合載置し、かつ、支持脚の従枠杵の外側面の延長線上の奥方に物入ケースの前面開口部が位置するように形成された「A30デスクボツクス」という商品名の移動式支持台を有する物入ケースが掲載されている。また、考案の名称を「机下用書類立具」とする昭和五二年五月六日付実用新案登録出願(実公昭五三-一五一七一八号)の願書添付の明細書及び図面(乙第三号証)には、側面視コ状に枠組形成し、左右平行に配置した支持脚の間を連結杆をもつてつなぎ一体に構成してなる支持台上に書類立本体を密着して形設した机下用書類立具が掲載されており、更に、登録番号第四〇九五二一号意匠種に係る昭和五〇年一一月二七日発行の意匠公報(乙第四号証)には、意匠に係る物品「サイドテーブル」の登録意匠として、支持脚の縦枠杆1、1の上方延長線上より外方に前面開口部aを位置させた方がより効果的であるはずである。したがつて、支持脚の縦枠杆1、1の上方延長線上に物入ケースAの前面開口部aが位置することによる効果は、被告の主張1(三)及び(四)の効果に求める方が理論的である。そうすると、被告製品の右(2)の構成からは、右1(四)の効果を期待することができないのであり、被告製品が本件考案と構成上の差異を有していることは明らかであるから、原告の右主張は、理由がない。

(三)  被告製品は、前1(三)及び(四)の効果を奏しない。

右(一)及び(二)のとおり、被告製品は、支持台B'に物入ケースA'を嵌合載置しただけのものであつて、互いに係離自在に組み付けたにすぎず、前面開口部aにおける周囲枠部分は、縦枠杆1'、1'の上方に直結しての堅牢な部分であるとはいえないし、最も安定した状態で移動させることができるともいえない。また、被告製品は、支持脚b'、b'の縦枠杆1'、1'の外側面の延長線上より約五ミリメートル外方に物入ケースA'の前面開口部a'が位置するように形成されたものであつて、前面が揃うということもない。

したがつて、被告製品は、前1(三)及び(四)の効果を奏しない。

四  被告の主張に対する原告の反論

1  被告の主張1について

原吉は、特許庁審査官の昭和六一年六月二日付の拒絶理由通知に対して、同年九月四日付意見書に代えた手続補正書をもつて、被告の主張1(二)ないし(四)の効果を追加したが、そのうちの(三)及び(四)の効果は、不件考案の作用効果ではなく、実施例のものに特有の作用効果であるにとどまる(ただし、縦枠杆と前面扉とは前面が揃うことになるので体裁上もよいというのは、美観の問題であつて、作用効果ではない。)。すなわち、本件考案は、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載から明らかなように、物入ケースのうちその前面開口部における周囲枠部分が堅牢なもののみに関する考案ではなく、また、前面扉を取り付けるものに関する考案でもないから、必ずしも右(三)及び(四)の作用効果を奏することを要しないのに対し、実施例のものは、「箱状をする物入ケースAの前面開口部aの周囲2は四角状に補強形成されており」(本件訂正公報一頁右欄一〇行ないし一二行)、縦枠杆の上方延長線上に物入ケースの前面開口部が位置するように形成されているのであるから、右(三)及び(四)記載の作用効果を奏するのである。

2  被告の主張2について

(一) 被告は、本件考案の構成要件(B)に関して、縦枠杆1と前面開口部aとの相対的な直結(固着等)関係により、最も手のかかりやすい個所である前面開口部aにおける周囲枠部分2「に手をかけることにより最も安定した状態で移動させることが出来る」(本件訂正公報二頁右欄二〇、二一行)のであると主張するが、右記載部分は、右1のとおり、実施例のものに特有の作用効果に関するものであるから、これを根拠として、本件考案の構成要件(B)の「密着して形設し」を定義づけるのは、本末転倒である。

(二)(1) 「トレジヤーのスチールケース」と題するカタログは、昭和五三年末までに作成されたのではないから、その記載は検討するに値しないし、仮に右カタログが同年末までに作成されたものであるとしても、「A30デスクボツクス」という商品名の移動式支持台を有する物入ケースは、支持脚のやや円弧状をした縦枠杆部分に比べて、物入ケースの前面開口部がかなり奥方に位置するように形成されたものであるから、本件考案は、縦枠杆のほぼ上方延長線上に物入ケースの前面開口部が位置するように形成することを要件として、実用新案登録を受けたものとみることができるのであるまた、昭和五二年五月六日付実用新案登録出願(実公昭五三-一五一七一八号)の願書添付の明細書及び図面に記載された机下用書類立具や昭和五〇年一一月二七日発行の意匠公報に記載されたサイドテーブルは、本件考案のように、積桟等のあるテーブル下面にテーブル前面から押し込んで空間を利用するという考えの全くないものであるから、右公知例によつて本件考案の解釈を左右することはできないものといわなければならない。

(2) 本件考案において、縦枠杆1、1の上方延長線上に物入ケースAの前面開ロ部aが位置するように形成するということの技術的意義は、本件考案が、デスク下方における積桟や突出部が存在している個所に物入ケースを嵌装することを目的とした考案であることを無視しては到底理解することができない。すなわち、本件考案は、請求の原因3(二)(3)のとおり、右目的のために、支持脚bを側面視コ状に形成するという構成を採用し、この構成を前提として、押し込み移動の場合の前面開口部aに手をかけることによる移動の容易性、物品の出し入れの容易性、かなりの物品の収納性という作用効果を製するように、縦枠杆1、1の上方延長願上に物入ケースAの前面開口部aを位置させるという構成を選択したのである(支持脚bの縦枠杆1、1の上方延長線上より奥方に物入ケースAの前面開口部aが位置するならば、物品の出し入れが容易でなくなることは明瞭であり、逆に、支持脚bの縦枠杆1、1の上方延長線上より外方に物入ケースAの前面開口部aが位置するならば、物品の出し入れは容易になるけれども、それでは、椅子に 掛けた人間の脚が入らなくなつてしまい、デスクの甲板下面の未利用空間の利用という目的を達することができない。)。したがつて、積桟や突出部が存在しているデスク下方の空間を利用するという限定のもとで本件考案の構成要件(C)を考えるならば、右の作用効果の点において、被告製品は、本件考案と構成上の差異はない。

被告は、支持脚bの縦枠杆1、1の上方延長線上に物入ケースAの前面開口部aが位置することによる効果は、被告の主張1(三)及び(四)の効果に求める方が理論的である旨主張するが、右主張は、右に延べたところに照らしても、理由がないというべきである。

(三) 被告は、被告製品は被告の主張1(三)及び(四)の作用効果を奏しない旨主張するが、前1のとおり、右(三)及び(四)の作用効果は、実施例のものに時有の効果にすぎないから、これを論ずることは、無意味である。

第三  証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  原告が本件実用新案権を有していること、被告が遅くとも昭和六二年ころから業として被告製品を製造販売していることは、当事者間に争いがない。

二  本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が、本件訂正公報の該当項記載のとおりであることは、当事者間に争いがなく、右争いのない実用新案登録請求の範囲の記載と成立に争いのない甲第一号証(本判決添付の実用新案公報。願書添付の図面が掲載されている。)及び第二号証(本件訂正公報)によれば、本件考案の構成要件は、請求の原因3(一)(2)のとおりであることが認められる。

三  被告製品が、本件考案の技術的範囲に するか否かについて判断する。

1  前掲甲第二号証によれば、(一)本件考案は、下面にキヤスターを具備し左右同形、同寸法のコ状枠体を配した移動式支持台上に箱形状をする物入ケースを一体状に架桟形成してなる移動式物入ケースに関するものである、(二)近年、オフイスや銀行等において、複雑化する各種事務を現場で迅速確実に処理することが切望され、事務室の空間を最大限有効に活用する事務機器の出現が望まれている、(三)本件考察は、右のような事務機器の提供を目的として、右二で認定した実用新案登録請求の範囲のとおりの構成を採用し、これにより、(1)支持台における支持脚の前面縦枠杆あるいは物入ケースの適所を握つて引押しすれば、下枠杆下面のキヤスターによりどこへでも移動させることができ、例えば、従来は未利用空間であつたデスクの甲板下面空間に対し、支持台のコ状支持脚により形成されている空間をデスク下方における積桟や突出部と嵌合するように押し込めば、デスク下面空間内に収納ケースを嵌装したこととなり、未利用空間を充分に活用することができるのであつて、この場合、物入ケースの前面開口部が最も手の届きやすい個所に位置するので、各種物品の出し入れに至便であり、今までほとんど使用されなかつた空間を活用することができる、(2)上部の物入ケースは、所要の事務用紙葉、フアイル、筆記具等の 好の収納ケース体であつて、また、物入ケース体の上面は平坦面であるから、簡易な筆記面又は物品の截置面として充分活用することができる、(3)特に、支持脚の縦枠杆の上方延長線上に物入ケースの前面開口部が位置するように形成されているので、低所にあり、かつ、小形な物入れにもかかわらず、書類その他の物品の出し入れが極めて容易になしうるとともに、物入ケースが 方に向かつて 状に形成されているので、かなりの物品を収納することができる、(4)物入ケースの前面開口部における周囲枠部分は、最も堅固に構成されている縦枠杆の上方に直結しての堅牢な部分であるので、かかる最も手のかかりやすい個所に手をかけることにより、最も安定した状態で移動させることができる、(5)また、右間組枠部分は、前面扉を取り付ける個所としても最も堅固な構成であるとともに、前面が揃うことになるので、体裁上もよいなどの作用効果を奏するものであることが認められる。

右(三)(4)及び(5)認定の本件考案の作用効果について、原告は、本件考案の作用効果ではなく、前面開口部の周囲が「四角状に補強形成されて」(本件訂正公報一頁右欄一一、一二行)いる実施例のものに特有の作用効果であるにとどまる旨主張する。しかしながら、右(三)(4)及び(5)の作用効果は、特許庁審 官の昭和六一年六月二日付拒絶理由通知書をもつてした「考察の詳細な説明中には、実用新案登録請求の範囲に限定した構成事項に対応して効果が記載されていず、不明瞭である。例えば、支持脚の縦枠杆の上方延長線上に物入ケースの前面開口部が位置する如く形成した構造に対応する効果が不明である。」旨の拒絶理由通知に対して、原告が同年九月四日付意見書に代えた手続補正書をもつて、右(三)(3)認定の作用効果とともに追加したものであり(右事実は、当事者間に争いがない。)、また、前掲甲第二号証によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の項の右(三)(4)及び(5)の作用効果に関する記載部分は、これをそのまま引用すると、物入ケースAを「引出したり、移動させたりする場合に最も手のかけ易い個所であるこの物入ケースAの前面開口部aにおける周囲枠部分2は、最も堅固に構成されている縦枠杆1の上方に直結しての堅牢な部分であるので、かゝる最も手のかかり易い個所に手をかけることにより最も安定した状態で移動させることが出来る、更に又前面扉を取り付ける個所としても最も堅固な 成であると共に前面が揃うことゝなるので体裁上もよい。」(本件訂正公報二頁右欄一五行ないし二三行)というものであることが認められ、右記載内容によれば、これが実施例のものに特有の効果の記載であるとは認められず、また、他に本件明細書上原告の右主張に添う記載があるとは認められない。以上の事実によれば、右(三)(4)及び(5)の作用効果は、右二で認定した実用新案登録請求の範囲のとおりの構成によつて奏する作用効果であつて、前面開口部aの周囲が「四角状に補強形成されて」いるという実施例に特有の作用効果ではないと認めるのが相当である。したがつて、原告の右主張は、採用することができない。また、原告は、縦枠杆と前面扉とは前面が揃うことになるので体裁上もよいというのは、美観の問題であつて、作用効果ではない旨主張するけれども、右認定の本件考案の出願の経過及び本件明細書の考案の詳細な説明の項の記載によれば、本件考案の実用新案登録出願人は、縦枠杆と前面扉とは前面が揃うことになるので体裁上もよいというのも、本件考案の作用効果の一つであると認識し、かつ、その旨本件明細書に開示しているものと認められるから、原告の右主張も、採用の限りでない。

2  そこで、被告製品が本件考案の構成要件(B)を充足するか否かについて検討する。本件考案の構成要件(B)は、物入ケースAと支持台Bとの結合関係に関するものであるところ、前掲甲第二号証によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の項には、初入ケースAと支持台Bとの結合関係について、「移動式支持台上に箱形状をする物入ケースを一体状に 載形成してなる」(本件訂正公報一頁左欄一三、一四行)、「支持台B上に箱形をする物入ケースを形設するのであるが、……上部枠杆上に載架密着させて」(同二頁左欄七行ないし一三行)、「物入ケースAの前面開口部aにおける周囲枠部分2は、最も堅固に構成されている縦枠杆1の上方に直結しての堅牢な部分であるので、かゝる最も手のかかり易い個所に手をかけることにより最も安定した状態で移動させることが出来る」(同二頁右欄一六行ないし二一行)との記載があることが認められる。右記載のうち最後のものは、前1に判示したとおり、実施例の構成に特有の作用効果ではなく、前二で認定した実用新案登録請求の範囲のとおりの構成によつて奏する作用効果に関するものであるから、右記載によれば、本件考案は、その構成において、前面開口部aの周囲枠部分が「縦枠杆1の上方に直結しての堅牢な部分である」ことが示されているものと認められる。そして、右の「直結」とは、二つの部材が、その間に他の部材又は間隙を介在することなく、直接に連結している状態を意味するものである。以上の認定判 を総合すると、本件考案の構成要件(B)の「支持台B上に箱形をする物入ケースAを密着して形設し」というのは、支持台B上に物入ケースAを裁置するに当たり、支持脚bの縦枠杆1、1の上方においても、縦枠杆1、1の上方と物入ケースAの前面開口部aにおける周囲枠部分とが間隙を置くことなく直接に連結するようにして、物入ケースAの下面と支持台Bの上部枠杆3とを密に接触させることを意味するものと認められる。原告は、右認定の本件明細書の考案の詳細な説明の項の記載のうち最後のものは、実施例のものに特有の作用効果に関するものであるから、これを根拠として、本件考案の構成要件(B)の「密着して形設し」を定義づけるのは本末転 である旨主張するが、原告の右主張が理由のないことは、前1に判示したとおりである。

これに対して、被告製品であることについて当事者間に争いのない別紙目録の記載及び弁論の全趣旨によれば、被告製品においては、いずれも、両面視コ状に枠組形成した支持脚b'の角部に、半径六五ミリメートルのアールが付されており、箱形の物入ケースA'の下面に設けた凹入部6'に支持台B'の上部枠杆3'、3'を嵌合させて物入ケースA'を支持台B'に裁置した場合に、支持台B'の縦枠杆1'の上方においては、右アールが付されている分だけ、縦枠杆1'の上方と物入ケースA'の前面開口部a'における周囲枠部分との間に間隙があることが認められるので、右事実によれば、被告製品は、本件考案の構成要件(B)の構成を欠くものといわざるをえない。したがつてまた、被告製品は、構成要件(B)を備えていることによる本件考案の作用効果と同一の作用効果を奏しないものと認められる。

3  以上によれば、被告製品は、本件考案の技術的範囲に属しない。

五  よつて、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清水利亮 裁判官 宍戸充 裁判官 高野輝久)

目録

添付の図面に図示し、次に説明する構造のキヤスター付き支持台を有する物入ケース

一 図面の説明

第1図 全体の斜視図

第2図 全体の側面図

第3図 支持台B'の斜視図

第4図 第2図の一部を切欠いた拡大側面図

二 構造の説明

側面視コ状に枠組形成し、下部枠杆4'の下面には前後二個のキヤスターC'、C'を具備せしめた支持脚b'を左右に平行に配置し、左右支持脚b'、b'の上部枠杆3'、3'の間を一本の連結杆5'をもつて、下部枠杆4'、4'の間を二本の連結杆5'、5'をもつて各連結して一体に支持台B'を構成し、箱形の物入ケースA'の下面に凹入部6'を設け、該凹入部6'に支持台B'の上部枠杆3'、3'を嵌合させて物入ケースA'を支持台B'に載置し、かつ、支持脚b'、b'の縦枠杆1'、1'の外側面の延長線上より約五ミリメートル外方に物入ケースA'の前面開の口部a'が位置するように形成されている。

DL-50

〈省略〉

DL-40

〈省略〉

DL-50S

〈省略〉

〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉登録実用新案審判請求公告

〈12〉登録実用新案審判請求公告(Ⅰ)

〈51〉Int.Cl.4A 47 B 63/00 91/00 識別記号 庁内整理番号 6850-3B 6578-3B

登録実用新案第1732093号(実公昭62-27166号)に関する訂正の審判請求事件

〈24〉〈45〉公告 平1.3.30 審判請求 昭63.9.5 審判番号 昭63-16111

〈70〉請求人 株式会社バロン 静岡市中原569番地

〈74〉代理人 金子昭生

〈54〉移動式支持台を有する物入ケース

審判請求の趣旨

本件審判請求の趣旨は、実用新案登録第1732093号の明細書における実用新案登録請求の範囲中「下枠杆3」とあるのを、考案の詳細な説明および図面の記載を基に、これが誤記であるとして、「下部枠杆4」に訂正しようとするものである。

訂正明細書

〈54〉移動式支持台を有する物入ケース

〈57〉実用新案登録請求の範囲

側面視コ状に枠組形成し、下部枠杆4の下面には前後2個のキヤスターC、Cを具備せしめるものとした支持脚bを左右に平行に配置し、この左右支持脚b、bの間を連結杆5を以つてつなぎ一体に構成してなる支持台B上に、箱形をする物入ケースAを密着して形設し且つ前記支持脚b、bの縦枠杆1、1の上方延長線上に物入ケースAの前面開口部aが位置する如く形成した移動式支持台を有する物入ケース。

考案の詳細な説明

本考案は下面にキヤスターを具備し左右同形、同寸法のコ状枠体を配した移動式支持台上に箱形状をする物入ケースを一体状に架載形成してなる移動式物入ケースに関する考案である。近年オフイスや銀行等では複雑化する各種事務が現場で敏速正確に処理されることが切望されて居り、且つ事務室の空間を最大限有効に活用する事務機器の出現が望まれている。

本考案のものは下面にキヤスターを有する移行自在な支持台上に物入ケースをセツトしたものであるから、上部物入ケースに事務用紙葉を収納させ何処へでも移動し得ると共に、コンパクトであるからデスク、カウンター或いはチエアー其の他のオフイス家具の下面や側面等のあまり利用されていなかつた空間へ嵌め込み使用することも出来てオフイス空間を無駄なく活用することを得たものである。

次に図面に示す実施例について説明する。

Aは箱形をする物入ケースの全体を示し、箱状をする物入ケースAの前面開口部aの周囲2は四角状に補強形成されており内部に棚板d、d、d等を架設する、なおbは前面に吊下させる扉体であるが、これを欠く場合もある。Bは移動式支持台の全体を示し、両側には側面視コ状をするコ状枠体よりなる支持脚b、bをそれぞれ平行状態に配設するのであるが、このコ状支持脚bは上下に平行間隔をおいて上部枠杆3と下部枠杆4とを水平状態に形設しこの上下枠間の前端側を垂直な縦枠杆1を以つて連結する、そして内方角部には補強板を取り付け下部枠杆4の前後端部にはキヤツプを被着する、左右に平行に配設した両コ状支持脚b、bの両下部枠杆4、4の中間部は連結杆5を以つて連結しその端部を枠金6とボルト7で強固に固定すると共に両下部枠杆4、4の前後端寄り下面には特に回動自在なキヤスターC、Cを装着せしめる。しかして上記の様に構成せる支持台B上に箱形をする物入ケースを形設するのである  物入ケースAの前面開口部aが前記支持台Bに ける支持脚の縦枠杆1、1の上方延長線上に位置する如く形成し且つ他の物入ケースの外周表面は支持台Bの左右上部枠杆3、3より外万に突出せざる様にして上部枠杆上に載架密着させて全体を構成するのである。

本考案は以上の様に構成したので支持台Bにおける支持脚の前面縦枠杆1あるいは物入ケースAの 所を握つて引押しすれば下枠杆下面のキヤスターによりいづこへでも移動させることを得るもので、例えば従来は未利用空間であつたデスクの甲板下面空間に対し、支持台Bのコ状支持脚により形成されている空間をデスク下方における横桟や突出部と嵌合する如く押し込めばデスク下面空間内に収納ケースを嵌装したことゝなり未利用空間も充分に活用することを得るもので、この場合物入ケースの前面開口が最も手の届き易い個所に位置する訳で各種物品の出入に至便であつて今まで殆んど使用されなかつた空間と難も活用するもので、他の事務用家具の未利用下部空間にも巾広  用出来るものである。

先述した様に現在銀行その他のオフイスでは事務員がデスクやカウンターに占位した 事務処理出来ることは理想で最高の能率といえるがそれには軽便に瞬時に適所に移動出来る小抽斗等のものが必須である、本考案のものはかゝる要望に充分に応えたものである。すなわち本考案のものでは下部支持台Bの主構成を中空パイプその他軽量且つ小形の杆体を屈曲して構成しているものでその下部枠杆下面にはキヤスターを具備しているので軽く手軽に何処へでも移動させることが出来ると共に、上部の物入ケースは所要の事務用紙葉、フアイル、筆記具等の格好の収納ケース体であつて更に該物入ケース体の上面は平坦面であるから簡易な筆記面として便用出来或いは物品の載置面として充分活用することも出来る、そして本考案のものは特に支持脚の縦枠杆の上方延長線上に物入ケースの前面開口部が位置する如く形成した構造となつているので低所にあり且つ小形な物入れにも拘らず、書類その他の物品の出し入れが めて容易になし得ると共にこの物入れケースに 方に向つて箱状に形成されているので可成りの物品を収納出来る、又これを引出したり、移動させたりする場合に最も手のかけ易い個所であるこの物入ケースAの前面開口部aにおける周囲枠部分2は、最も堅固に構成されている縦枠杆1の上方に直結しての堅牢な部分であるので、かゝる最も手のかかり易い個所に手をかけることにより最も安定した状態で移動させることが出来る、更に又前面扉を取り付ける個所としても最も堅固な構成であると共に前面が揃うことゝなるので体裁上もよい。

この様に本考案のものは構造簡単で小形軽量である上移動自在であり、且つ製造コストも安価、多量生産にも適して居り利用範囲も広くすぐれた実用的価値に富む考案といえる。

図面の簡単な説明

図面は本考案の実施例を示し、第1図は全体の斜視図、第2図はその側面図、第3図に物入ケースの側断面図、第4図は第3図の一部の拡大図である。

A……物入ケース、a……物入ケースの前面開口部、B……支持台、b……支持脚、C……キヤスター、c……扉、1……支持脚の縦枠杆、3…上部枠杆、4……下部枠杆、5……連結杆。

〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉実用新案出願公告

〈12〉実用新案公報(Y2) 昭62-27166

〈51〉Int.Cl.4A 47 B 63/00 91/00 識別記号 庁内整理番号 6850-3B A-6578-3B 〈24〉〈44〉公告 昭和62年(1987)7月11日

〈54〉考案の名称 移動式支持台を有する物入ケース

〈21〉実願 昭59-15837 〈65〉公開 昭60-34251

〈22〉出願 昭54(1979)9月12日 〈43〉昭60(1985)3月8日

〈62〉実願 昭54-126751の分割

〈72〉考案者 一色忠成 静岡市中原569番地 一色興業株式会社内

〈71〉出願人 一色興業株式会社 静岡市中原569番地

〈74〉代理人 弁理士 金子昭生

審査官 樋口靖志

〈57〉実用新案登録請求の範囲

側面視コ状に枠組形成し、下枠杆3の下面には前後2個のキヤスターC、Cを具備せしめるものとした支持脚bを左右に平行に配置し、この左右支持脚b、bの間を連結杆5を以つてつなぎ一体に構成してなる支持台B上に、箱形をする物入ケースAを密着して形設し且つ前記支持脚b、bの縦枠杆1、1の上方延長線上に物入ケースAの前面開口部aが位置する如く形成した移動式支持台を有する物入ケース。

考案の詳細な説明

本考案は下面にキヤスターを具備し左右同形、同寸法のコ状枠体を配した移動式支持台上に箱形状をする物入ケースを一体状に架載形成してなる移動式物入ケースに関する考案である。近年オフイスや銀行等では複雑化する各種事務が現場で敏速正確に処理されることが切望されて居り、且つ事務室の空間を最大限有効に活用する事務機器の出現が望まれている。

本考案のものは下面にキヤスターを有する移行自在な支持台上に物入ケースをセツトしたものであるから、上部物入ケースに事務用紙葉を収納させ何処へでも移動し得ると共に、コンパクトであるからデスク、カウンター或いはチエアー其の他のオフイス家具の下面や側面等のあまり利用されていなかつた空間へ嵌め込み使用することも出来てオフイス空間を無駄なく活用することを得たものである。

次に図面に示す実施例について説明する。

Aは箱形をする物入ケースの全体を示し、箱状をする物入ケースAの前面開口部aの周囲2は四角状に補強形成されており内部に棚板d、d、d等を架設する、なおeは前面に吊下させる扉体であるが、これを欠く場合もある。Bは移動式支持台の全体を示し、両側には側面視コ状をするコ状枠体よりなる支持脚b、bをそれぞれ平行状態に配設するのであるが、このコ状支持脚bは上下に平行間隔をおいて上部枠杆3と下部枠杆4とを水平状態に形設しこの上下枠間の前端側を垂直な縦枠杆1を以つて連結する、そして内方角部には補強板を取り付け下部枠杆4の前後端部にはキヤツプを被着する、左右に平行に配設した両コ状支持脚b、bの両下部枠杆4、4の中間部は連結杆5を以つて連結しその端部を枠金6とボルト7で強固に固定すると共に両下部枠杆4、4の前後端寄り下面には特に回動自在なキヤスターC、Cを装着せしめる。しかして上記の様に構成せる支持台B上に箱形をする物入ケースを形設するのであるが、物入ケースAの前面開口部aが前記支持台Bに於ける支持脚の縦枠杆1、1の上方延長線上に位置する如く形成し且つ他の物入ケースの外周表面は支持台Bの左右上部枠杆3、3より外方に突出せざる様にして上部枠杆上に載架密着させて全体を構成するのである。

本考案は以上の様に構成したので支持台Bにおける支持脚の前面縦枠杆1あるいは物入ケースAの適所を握つて引押しすれば下枠杆下面のキヤスターによりいづこへでも移動させることを得るもので、例えば従来は未利用空間であつたデスクの甲板下面空間に対し、支持台Bのコ状支持脚により形成されている空間をデスク下方における横桟や突出部と嵌合する如く押し込めばデスク下面空間内に収納ケースを嵌装したことゝなり未利用空間も充分に活用することを得るもので、この場合物入ケースの前面開口が最も手の届き易い個所に 置する訳で各種物品の出入に至便であつて今ま  んど使用されなかつた空間と雖も活用するもので、他の事務用家具の未利用下部空間にも巾広く適用出来るものである。

先述した様に現在銀行その他のオフイスでは事務員がデスクやカウンターに占位した侭事務処理出来ることは理想で最高の能率といえるがそれには軽便に瞬時に適所に移動出来る小抽斗等のものが必須である、本考案のものはかゝる要望に充分に応えたものである。すなわち本考案のものでは下部支持台Bの主構成を中空パイプその他軽量且つ小形の杆体を屈曲して構成しているものでその下部枠杆下面にはキヤスターを具備しているので軽く手軽に何処へでも移動させることが出来ると共に、上部の物入ケースは所要の事務用紙葉、フアイル、筆記具等の格好の収納ケース体であつて更に該物入ケース体の上面は平担面であるから簡易な筆記面として使用出来或いは物品の載置面として充分活用することも出来る、そして本考案のものは特に支持脚の縦枠杆の上方延長線上に物入ケースの前面開口部が位置する如く形成した構造となつているので低所にあり且つ小形な物入れにも拘らず、書類その他の物品の出し入れが極めて容易になし得ると共にこの物入れケースは奥方に向つて箱状に形成されているので可成りの物品を収納出来る、又これを引出したり、移動させたりする場合に最も手のかけ易い個所であるこの物入ケースAの前面開口部aにおける周囲枠部分2は、最も堅固に構成されている縦枠杆1の上方に直結しての堅牢な部分であるので、かゝる最も手のかゝり易い個所に手をかけることにより最も安定した状態で移動させることが出来る、更に又前面扉を取り付ける個所としても最も堅固な構成であると共に前面が揃うことゝなるので体裁上もよい。

この様に本考案のものは構造簡単で小形軽量である上移動自在であり、且つ製造コストも安価、多量生産にも適して居り利用範囲も広くすぐれた実用的価値に富む考案といえる。

図面の簡単な説明

図面は本考案の実施例を示し、第1図は全体の斜視図、第2図はその側面図、第3図は物入ケースの側断面図、第4図は第3図の一部の拡大図である。

A……物入ケース、a……物入ケースの前面開口部、B……支持台、b……支持脚、C……キヤスター、c……扉、1……支持脚の縦枠杆、3……上部枠杆、4……下部枠杆、5……連結杆。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

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登録実用新案審判請求公告

〈省略〉

実用新案公報

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〈省略〉

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